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古武術介護からのヒント②

上体起こしのコツ(床上編)つづき

前ページより続く

足場を固定させないで,全身の力を参加させる

前ページまでのコツで、かなり起こしやすくなりますが、実は現場での問題は「起きた後」です.なぜかというと,介助が必要な人のうち,長座で安定して座れる状態まで身体を起こすことができる人は決して多くないからです.拘縮や筋力の不足から,起き上がるにつれて体が斜めによれてしまい,その状態を支えながら体勢を安定させるのに苦労することが少なくありません.

そこで,体勢が崩れる前に先手を打つ意味から,次のような工夫を提案してみたいと思います.


講習会で見本を見せる際,この動きを一気にやると,上体起こしの動きと回転して被介助者の後ろに回る動きが同時並列的に起こるので,うまく飲み込めない方がたくさんいらっしゃるのですが,実際にやってみると意外に簡単にできてしまう人が多い技術です.うまくできた場合にはお互いに負担もなく,起こされたのか,それとも自力で起きてしまったのかわからないような不思議な感覚を覚えます.

この技術を成功させるには,足場を固定しているか否かということが大きなポイントとなります.

図1のように,がっちりと足場を固めて,踏みしめることで筋力を発揮させて被介助者を起こそうとしていると,起こすことはできても,とてもじゃないけれど後ろに回り込むことはできません.被介助者の体勢が崩れてきてから慌てても,うまくフォローアップできないことになります.

そこで,あえて足場を固定させず,全身をリラックスさせた状態から片膝をストンと下ろすようにします(図6).その結果,自然と身体が90度回転してくれれば成功です.

zu06.jpg図6 起こすと同時に後ろに回り込む


実は,この90度回転ができるかどうかは,上体起こしを全身で行なっているかどうかをチェックする指標になります.足場を固定した状態では,下半身は固定されて動けないので,上半身だけしか介助動作に参加できません.ということは,被介助者に伝えられる力も上半身だけの力となってしまうのです.この状態のまま片膝をおろしても,足場を固めている限り身体は回りません.

片膝を下ろすことにより自然と90度回転が起こるということは,上半身と下半身が切れ目なく働いている証拠です.これにより,上半身だけでなく下半身も含めて,全身の力を効率よく被介助者に伝えることができます.


下半身が固定されていると,被介助者の重心が動いたときの変化にも対応しにくいという問題があります.相手の動きに随時対応するのには,こちらも常に動ける体勢をとる必要があり,そのためにも足場は固定せず,動ける状態にあることが重要だと思います.

このように,足場を固定しないという考え方は常識と異なるので戸惑う方も多いかもしれません.しかし,相手が起きていく動きに随時対応するためには,こちらの身体に固定的な支点を作らないほうがいいというのは当然のことかと思います.相手の自然な動きについていければ,相手と自分の動きが一体となった状態になります.だから,上手くいったとき,被介助者は「起こされた」のか「(自分で)起きたのか」わからないような感覚を覚えるのです.

フィルムを逆転させるように

この方法は,私の紹介する技術のなかでは比較的効果を実感しやすい方法です.起こす方向性と90度回転がはまると,ほとんどの方がスムースな上体起こしを体験できます.ただ,後ろにピタリとつくことが上手くいかず,被介助者の背中から離れてしまう,という人もいらっしゃいます.せっかく起こせても,これでは実際の介助の際には次の動きにも移りにくく,被介助者の体勢も安定しません.

そこではじめの位置が重要と足の位置をいろいろと変えて後方に回れる位置を探しますが,どうもうまくいきません.私自身は,この技術ができるようになったときは特に足の位置を考えていたわけではなかったので,「自然に膝を降ろせば……」というアドバイスしかできずにいました.

そんななか,毎月定期的に行なっている研究会で,ある参加者の方から「この技術がなかなかうまくいかなかったけど,うまく行なうコツを発見した」と教えていただきました.それは,長座状態の被介助者の後ろにぴったりとついた体勢から,だんだんと相手を寝かせていくという,「フィルムの逆回し」式練習法でした.完全に寝かせた状態から,再びフィルムを再生するように上体起こしを行なったところ,先ほどまでどれだけ回り込む位置を工夫してもうまくいかなかったものが,あっさりと相手の後ろにぴたりとつくことができたというのです.

我々はどうしても,時系列にそって物事を考えます.うまくいっているときはそれで問題ありませんが,うまくいっていないときには,失敗を何度もなぞる,ということになりかねません.成功したところから,だんだんと最初の体勢に戻っていくという「フィルムの逆回し」練習法は,言ってみれば時間の流れを逆にして「成功」を体験する,ということになるかもしれません.

この発想は,単にこの技術の練習方法だけでなく,発想の転換として多くのことを示唆してくれるように思いました.

『看護学雑誌』72巻7号より。
イラスト:三上修

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